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広島高等裁判所松江支部 昭和45年(う)102号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人山桝博の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

控訴趣意第一点について

所論は要するに、原判決は、被告人が原判示第二の日時に路上に駐車してあつた自動車に乗車し、エンジンの始動を開始し、エンジンを暖めるアクセルを踏むなど発進のための準備として自動車の装置を操作したことが、道路交通法にいう「運転」にあたると解釈し、原判示第二のように被告人が酒に酔い自動車を運転した事実を認定し、この所為に対し同法一一七条の二第一号(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの、以下同じ)、第六五条、同法施行令二六条の二(昭和四五年政令二二七号による改正前のもの、以下同じ)を適用しているが、右は法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。

よつて案ずるに、道路交通法二条一七号において、同法にいう「運転」とは「道路において、車両又は路面電車をその本来の用い方に従つて用いることをいう。」と定義されているところ、自動車を「その本来の用い方に従つて用いる」場合としては、エンジンの動力により走行させることが主として考えられるのであるが、道路交通法が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図ることを目的としていることにかんがみると、必ずしも走行させている場合にのみ限られるものではなく、道路において走行する目的でエンジンを作動させている場合には、発進前または停止中であつてもこれにあたると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原判決挙示の各証拠によれば、被告人は原判示第二の日時に、その場所において、自宅に帰るため道路上に駐車させてあつた軽四輪貨物自動車に乗車し、エンジンを始動させ、発進しようとしていたことが認められるのであり、前記説示したところにしたがえば、被告人の右所為が自動車の運転にあたることは明らかである。されば、原判決が原判示第二のとおり被告人が酒に酔い自動車を運転した事実を認定し、道路交通法一一七条の二第一号、第六五条、同法施行令二六条の二に違反する罪の成立を認めたことは正当であり、所論のような法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。

控訴趣意第二点について

所論は、原判決の刑の量定が不当であつて、被告人には執行猶予を付するのが相当であるというのである。

しかしながら、本件は、被告人が業務上過失傷害罪で一回、酒酔い運転による道路交通法違反罪で二回いずれも罰金刑に処せられた前科がありながら、原判示第二の酒酔い運転をし、警察官からその取調べを受けるや寛大な取計らいを求めて原判示第三の贈賄の申込みをし、右各犯行につき公訴を提起されてその審理中さらに原判示第一の(一)、(二)の酒酔い運転とそれによる業務上過失傷害の所為に及んだものであつて、被告人の遵法精神の欠如は著しく、その犯情はまことに重いといわざるを得ず、被告人が平素妻子を抱え一家の中心として農業を営み正常な生活していることその他弁護人指摘の事情を参酌検討しても、なお原判決が被告人を禁錮四月の実刑および罰金三、〇〇〇円に処したことは妥当であつて、右禁錮刑に執行猶予を付すべきものとは思料されない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条に則り本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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